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『皇帝にもらった花のたね』 ― 真摯さと理念を考える

https://www.tokuma.jp/book/b502912.html
花を愛する皇帝が世継ぎを探すために国中の子どもたちへ、一粒の種を配り、出したおふれ。
「このくにの こどもたちは ひとりのこらず きゅうでんに きて 皇帝から 花のたねをうけとるように。
そのたねを たいせつに そだて、 いちねんご、 皇帝に みせにくるように。
皇帝は その こどもたちの なかから よつぎを えらぶ」(本文から)
主人公の少年ピンは、その種を大事に植え、水をやり続けました。
けれども芽は出ません。
季節が巡り、春になっても、ピンの鉢には何も育っていませんでした。
一年後、他の子どもたちは色とりどりの花を持ち寄ります。
けれども――実は配られた種はすべて、一度焼かれた咲くはずのない種だったのです。
ただ一人、正直に「咲かなかった」鉢を持ってきたピン。
皇帝はその誠実さを認め、世継ぎに選びました。
真摯さという資質
ピーター・F・ドラッカー博士は『マネジメント』の中で、こう記しています。
「後天的に獲得することのできない資質、始めから身につけていなければならない資質が一つだけある。才能ではない。真摯さである。」〔ドラッカー『マネジメント』〕
芽が出ない鉢に一年間向き合い続けたピンの姿は、この「真摯さ」そのものです。
正直さ、誠実さ、勇気。人が信頼に値するかどうかは、才能よりもむしろ、この資質にかかっているのだと感じさせられます。
理念=あるべき姿
では、理念とはどのような働きをするものでしょうか。
理念は、組織や個人が「本来どうありたいか」を示すものです。
その働きは、絵本の中から次のように考えることができます。
- 考え方を示すの役割:進むべき方向を照らし出す。迷ったときに立ち返る基準となる。
- 土壌の役割:誠実さや信頼といった価値観を根づかせ、育てていく。
- おふれの役割:みんなが同じ言葉を共有し、行動の基準を合わせる。
理念が示されなかった絵本
ここで気づくのは、この絵本のおふれには「フィロソフィ・理念」が示されていなかったということです。
種を植え、大切に育て、花を咲かせること。
この「大切に」から、多くの子どもや親たちが、その意味を正しく読み取ることが難しいものでした。
そのため子どもたちは、芽が出ない現実を前に「どうすべきか」迷ったとき、
適切な判断の指針を持てなかったのです。
また、国を治めるものとしての在り方を、家族で話し合い最適な行動を選ぶことができなかったということがわかります。
しかし、もし「世継ぎにふさわしいのは、国民の幸せを考えることができる者である」と、考え方が添えられていたら、
「皇帝は その こどもたちの なかから よつぎを えらぶ」
という、行動の意味づけは大きく変わっていたかもしれない・・・と想像してみました。
何を行うのかには、
そのプロセスで判断に迷ったときに最適な決断ができるための「指針」が必要になります。
それこそがフィロソフィであり、理念なのです。
フィロソフィ・理念は、われわれの仕事のベクトルであり、北極星(目標・ビジョン)であり、そして選択の基準である――この絵本から、そのことがよく見えてきます。
そして、このフィロソフィ・理念を考える物語には、もう一つ、大切なことが含まれています。
ピンには、お父さんという「真摯さ」を示してくれる存在がいました。
絵本の中で、お父さんは理念の役割を果たしているのです。
「おまえは いっしょうけんめいに、できるかぎりのことを したじゃないか。
むねを はって そのうえきばちを 皇帝に みていただきなさい」
だからこそ、ピンは「芽が出ない」という不安や周囲の目に惑わされることなく、自信をもって真摯さを貫くことができました。勇気を胸に、皇帝の前に進むことができました。
あなたにとっての理念とは
この絵本は、ページをめくるごとに香り立つような美しい色彩と構図で描かれています。
これだけでも、いかに、この国が平和で人々が豊かに暮らしているのか、
皇帝がいかに、国民を大切にしているのか、伝わってきます。
さらに、一こま一こま世界観を描くようなページ設計の余白から
「われわれはいかにあるべきか」という問いを受け取ることができます。
咲かない種を前にしてなお誠実であり続ける勇気。
理念を胸に歩み続ける姿勢。
そこにこそ、これからの帝王学=マネジメントの核心があるのだと思います。
最後にこんな問いを。
●あなたの組織にとっての「国民の幸せ」にあたる言葉は何でしょうか。
●そして、あなた自身にとっての「国民の幸せ」とは何でしょうか。
理念は、未来を照らし、人を育み、行動を変える「見えない力」です。
その答えを探すことこそ、理念を考える第一歩になるのではないでしょうか。
みんなに求められる帝王学
ドラッカーの思想を日本に紹介した上田惇生氏は『ドラッカー入門』から贈ります。
「かつては国王の治世によって国の繁栄が左右された。
だがこれからは、組織のメンバー全員が自らを律する帝王学を身に付けなければならない。
全員がトップのように働かなければ、組織の成功も社会の繁栄もない。」
〔上田惇生『ドラッカー入門』〕
真摯さは、リーダーだけに求められる資質ではありません。
誰もが「皇帝のように考える」ことができなければ、
「ピンのおとうさんのように在り方を示す存在(理念)」がなければ、
組織や社会は持続的に成長できないのかもしれません。
JAL再生の物語から考えてみました。
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